2012/03/03

3/16〜3/21 田淵裕一「UNDER THE DISGUISE OF THE MORSE CODE 」

 YUICHI TABUCHI EXHIBITION 2012
モール・コードによせて:田淵裕一作品展



田淵裕一さんは筆者が勤務していた美術出版社の4~5年
後輩である。田淵さんの入社の頃は社員への希望者が
多く、10~20倍の入社試験を経て入って来た、優秀な
才能の持主である。その田淵さんが、編集を主とした
仕事の面白さに満足することなく、入社当時から、
常に、個人的な造形の創作活動を、いくつも展開し、
制作している。美術館にコレクションされている作品も
少なくない。その田淵さんが、今度、あらゆる外部の
仕事から解放されて、自分自身の意欲と快感の喜びを
抱いて制作したであろう作品を展覧する。
 筆者はその作品群を見て、S.ダリが言った「未来の
建築は『柔らかくて毛深い』ものになるだろう」と言う
言葉を想起した。何故かは不明だ! R.マグリットの
絵に「海上に鳥形を顕示した=大家族」というのがあるが、
それに近い模索をしたのかも知れない。田淵さんの作品には
題名は付けられていない。観覧者はどう歓喜し、何を
思考するだろう。筆者は最近、芸術には、健康・諧謔
愛が必要だ!と思うようになった。
田淵さんの美意識の光の中で、技巧は構想となって、
形成している。制御された素材による位相表現が、
何か新しい純粋へ、快気へと向かっている。

羽原粛郎[デザイン・エディター]



田淵裕一の「モールス・コード」について連想したこと。
連想<1>空也上人像
作家の田淵裕一から今回の出品作品のコピーの束が送ら
れて来た。パラパラ見ているうちに、口から6体のひと
がたを吐き出している「空也上人像」(13世紀、康勝作、
運慶の4男)を連想していた。なぜだかわからない。
ひとがたは後世の補作で、南無阿弥陀仏の6文字を形象
化したもの。針金状の上に、横一列に並んでいる。上人
はこれを飲み込もうとしているのか。吐き出そうとして
いるのか。これも分からない。鎌倉期の彫刻は、仏像に
限らず、天皇や僧の肖像の写実主義が強調されて人物
表現の内面にまで入り込んでいるように思われる。
連想<2>山村暮鳥の詩「風景」
いちめんのなのはな いちめんのなのはな
いちめんのなのはな いちめんのなのはな
いちめんのなのはな いちめんのなのはな
いちめんのなのはな (中略)
一面真黄色な、なのはなに埋まった田園風景
が目の前に浮かび上がってくるような詩句が27行分続
いている。ミニマル・ポエトリーの心にくい技巧をこら
している。これもどうして連想されたのか分からない。

森口陽[美術評論家]



会期

2012年3月16日(金)~ 21日(水)
13:00~19:00(最終日は17:00まで)


プロフィール

田淵 裕一(Yuichi Tabuchi)
1940年 フランス人形つくりの息子として大阪に生まれる。
1958年 大阪市立工芸高校美術科卒。
1962年 多摩美術大学日本画科卒。
同年美術出版社入社。同期に長田弘、故岡田隆彦。
1977年 渋谷道玄坂で田淵編集美術事務所として、装丁、エディトリアルデザインをはじめ、多くの主なる出版社、小さな本屋、美術館、ギャラリーの仕事をする。スタッフを組まず、自分で絵を描き、文字を描き、写真を撮り、オブジェをつくり、レイアウト、構成をすべて一人で行う主義で、(もちろん原稿の受けわたしもテクテク出かけていってきたが、)コンピュータによるIT革命とやらに性が合わず 20世紀を越えたあたりで、ほぼ50年間の仕事をやめ、2005年 高輪の書肆啓祐堂ギャラリーで「田淵裕一・本のかけらたち」という小さな展覧会を開催して、職業としての営為のけじめとした。


参考作品



※上記二点の画像は作品の一部分です。