2013/10/13

10/31 - 11/5 YUICHI TABUCHI EXHIBITION 2013 SINCE 1968 made up



会期 

2013年10月31日[木]----11月5日[火] 13:00----19:00
[最終日は18:30]



作家名称

田淵裕一


展示名称

YUICHI TABUCHI EXHIBITION 2013
SINCE 1968 made up

1968年来のでっちあげ
田淵裕一作品展


展示説明

このまえ、京都寺町通りのサンボアという
オールド・バーのとびらをおずおずと押した。
由来はわからないが名付けたのは谷崎潤一郎とか。
ここは Established 1918。 創業95年。

わたくしも、身辺にある店や物の歴史にくらべてみても、
だいぶ老舗(創業73年)となっていることに気づき、
体力、気力、感性、想像力、自負も……悲喜こもごも。
今回の提示。
SINCE 1968  made up
1968年来のでっちあげ

ワインやウイスキーのように熟成を待って秘蔵?。
12年、24年ものよりながい45年ものの13色の定規。
MD メートル原器(1913-14)
小林秀雄 ナイル・ユニカーブの曲線定規(1950)
磯崎新 モンロー定規(1973)
これらの定規ついでにmade up ruler(1968)

ルーラーとは支配者、統括者、立権者の意。
美術の標榜する自在なんぞお構いなく定規の直線、曲線から
かたくなにはみださずにドロウイング。
そのいくつかのモデル。

だれでも描けます。


made up/ボール紙/型抜き/エナメル塗装/段ボール/アクリルケース/テキストA4/
250mm×250mm/1968

Since 1968 made up/dermatograph/paper/2013/690mm×490mm


ギャラリーの鍵を自分でオープンし、
自分でクローズしなければなりませんので
ぼくは、ずーっとここにいるのです。
どうぞお出かけください。

田淵裕一



線の余白 一つ前のプレゼンテーション

グーグルのストリートビューで田淵宅をお訪ねしたら、玄関に「TEA」という
四角いプレートが貼ってあった。最近はお茶に凝っているらしい。田淵裕一
はとても多趣多様な御仁である。日々有能なドライバーであり、ギブスをす
るまでは粋なライダーであって、ハイカー、登山、温泉トレッカーを経て、今
では休むことなき堅実なスイマーとなり、楽しいローディー達に囲まれたサ
イクリストである。食通であることは勿論、根っからのカメラ好きで、どの場
にもお気に入りの写真機が登場してシャッターが切られる。また、話題が
どんなことであれ、独自の趣向と経験に従って語ることが出来る語り部で
ある。テーマはその場によって変わって間はあっても、話し始めたら止まら
ない。

田淵さんは大の猫好きである。電話がかかってくると、必ず飼い猫の話で
会話が始まり、またとても楽しそうである。田淵裕一は猫かも知れない。
奥様も猫好きのようなので、田淵夫妻は猫の夫婦だ。奥様は毎夜遅くに
お出かけになるそうだ。

この線分が連なるような多様な趣向の流れは、ただの遊びや真面目な仕
事、健康のための行いで、ここに示したのはその一部に過ぎないが、田淵
という人となりに形成され、田淵流アートに結集されていった。
美術出版社のデザインセンターに席を置いていた若き日の田淵は、美術
年鑑など数々の装幀の仕事をしていた。そして突如、自主制作「プレゼン
テーションの一つ前のプレゼンテーション」という作品を発表した。それは
1967年にして、1999年から2000 年に移り変わる日月を記したカレン
ダーの提示であった。線状の時の流れに特別な断層はあるのか。その時
何が起こり、あなたは何をするのかと問いかけてきた。翌年、今回の個展
のベースとなっている「made up」を制作した。当時の日本は高度経済
成長期にあって、印刷などの製造業も、今までの型に嵌まらない、新しい
事業、分野に挑戦しようと活気付いていた。それに応えるかのように、田淵
は引き続き「ぬりえ」「274字用箋」と特筆すべき自主作品を発表する。そ
れらの作品は、その懐かしい時勢を美事に反映していて、今でも創作する
ことの喜びに満ち満ちている。

1977年、田淵は独立し、渋谷道玄坂に「田淵編集美術」という一人事
務所を設立した。つまり「TEA」である。以来、装幀を中心に数多くの仕
事をし、21世紀を迎え、編集作業のデジタル化を口実に装幀家業を止
めたことになっている。
そもそも装幀とはなんであるか。刊行物の外回りのデザインで、表紙と裏
表紙等で筆者の著作を挿む行為であり、読者は初めに書籍の背表紙、
表紙を観るので、装幀とは、著作というプレゼンテーションの一つ前のプレ
ゼンテーションであることになる。装幀家はどうしても作者という他者の余
白を通過しないと仕事にならない。田淵はこのような作業を延々と繰り返
し続けてきたのである。
それを線に例えるならば、余白のある線、破線のような行為の連続であっ
たといえよう。定期刊行物なら規則正しい点線だが、一般書は何時注文
が来るか分からない不規則な破線的な仕事となる。私も田淵さんに数冊
の著書と個展カタログで不定期にお世話になっている。次の予定はまだ
ない。
鋭敏で利発な田淵裕一は、いち早く「プレゼンテーションの一つ前のプレゼ
ンテーション」を発表し、その後の「made up」で田淵流アートを確立した。
「made up」は、いろんな形を型抜きした13枚の定規と称せられるテンプ
レートとテキストで構成されている。その定規を使えばなにかしらのアート
になるという余白を付加した作品である。次なる「ぬりえ」は、線描された
絵が100枚「ぬりえしてください」と返信用の封筒が同封された作品で
あって、「274字用箋」も文字数が決められた274字のマス目を配置し
た原稿用紙で、そのマス目を埋めるようにして作文をしろという仕掛けで
ある。いずれも、また次なる「TABTYPE」も、自らを含める他者によって、
用意された余白を埋められることでこそ完成する、まさしく、プレゼンテーシ
ョンの一つ前のプレゼンテーションの作品である。
1979年の「TABTYPE  Photogenic Drawing」は、田淵が愛する
写真術に由来するドローイング機器である。写真は、写真機のシャッター
を切った瞬間が一つ前のプレゼンテーションである。そのイメージはフィルム
に、「TABTYPE」では乾板らしきプレートに転写され、多数の線分、破線
によるステンシルのテンプレートとなった。フィルムは現像され焼き付けされ
て写真となるのだが、このテンプレートを使用するとその線分破線を培養し
て、自由自在なドローイングを無限に制作することが出来る。

田淵はフランス人形作りの息子として生を受けた。幼少の頃、人形作りの
生地の切れ端や糸くずが服に付いていて、皆に冷やかされ、とても恥ずか
しい大きなトラウマとなったという。盛んに山登りをしていた時代、私もお供し
たが、温かそうなフリースに猫の毛がいっぱい付いていたことを思い出す。今
も洋服に糸くずや、猫の毛が付いていないかと日々気にしているようだ。
2008年「輪郭の幻想」展の、姿なき客人は、これら線分、破線を紡いで出現
させたものに違いない。昨年の「モールス・コードにことよせて」の作品も、ある人
は陰毛ともいうが、やり残していた「プレゼンテーションの一つ後のプレゼンテー
ション」の線の余白に、本格的に手を付け始めたのである。 さあ made up
が、はじまる。

田淵さんは車で、夜な夜なお出かけの奥様の送り迎えを続けている。世界と交
信する奥様は、優秀な同時通訳者で、田淵裕一の一番の理解者であり、献身
的なサポーターだ。お二人の益々のご活動を心よりご期待申し上げたい。

戸村 浩  造形美術家




会場

Gallery NIW
〒112-0014 東京都文京区関口1-44-8
東京メトロ有楽町線 江戸川橋駅 1b出口より徒歩3分
 (中央・総武線からの乗り換えは市ヶ谷駅を推奨)
東京メトロ東西線 神楽坂駅 2出口(矢来口)より徒歩11分
都電荒川線 早稲田駅より徒歩12分


入場料

入場無料